#040427

家の呼び鈴が鳴った。ドアを開けたらタモリがいた。
タモリ、サングラスつけてなかった。

私は誰かが言ってた「タモリがサングラスを外すときは風呂のときと服従を誓ったときだけ」という言葉を思い出して「タモリ、お茶」と言ってみた。
するとタモリは台所に行くと見せかけて、油断した私に裏拳を2発顔に浴びせてきた。

私の腫れ上がったほっぺたを見てタモリは
「あれ?太った?」といつものやる気のなさそうな声で言った。





#040425

いつもなら私も蛇を家に入れるなどということはしないものなのだが、その朝蛇口から出てきた白い蛇はスマートで紳士的で、外は雨だった。こんなに紳士的な蛇が人様の家に入り込んでしまうなどとは、何か重大な事件でも起こったかしらと思い、私は蛇を招き入れてテーブルの上に座らせた。蛇はいたってスマートにテーブルに乗り、紳士的な態度でこんにちはと言った。私もこんにちはと答え、蛇の前に腰を下ろした。蛇はしばらく辺りを見回し、それから落ち着いた声でいい雨ですねと言った。「いい雨で、いいコーヒーの匂いがする」
確かに風情のある雨であって、四月の雨はこんな雨であって欲しいと願うような爽やかな細かい雨粒がさらりさらりと地面に舞い降りていて、その音は半分開いた部屋の窓からそれこそ紳士的といえるような足取りで私の耳に心地よく響いていた。テーブルの片隅には淹れたてのコーヒーが、スマートな湯気を立ち上らせながらふんわりと柔らかな香りを運んでくる。私は蛇に起こっているのかもしれない事件について訊くことをやめ、そうですねと言った。「いい雨で、いいコーヒーの匂いだ。蛇さん。他に何か必要なものはありますか」
蛇は少し考え、うーんと大きな背伸びをした。本当に気持ちよさそうな背伸びで、私の問いに対しての彼の答えはいつまでも出ては来なかったが、私はそのスマートで紳士的な白い蛇を心底羨ましく思った。





#040423

fast food text party
ハラポネット主催  ファーストフードテキストパーティー参加





#040418

部活に行ったら体育館に同じ二年生の大村さんがいた。大村さんはいつも体育館に来ると最初に開脚運動をする。でもいつも脚が90度以上広がらない。
「大村さんおはよう」
「おはよう」
「今日も開脚?」
「うん」
大村さんは短く答えてぐっと力を込めて開脚する。でも90度以上は広がらない。
「がんばればきっとすぐ柔らかくなるよ」
「そうなのかな…」
「大村さん?」
「私が開脚できないのはさ、なんか根本的な問題のような気がするんだよね」
「…」
「例えば私の体が超合金じゃなかったらとか、そんなこと考えるんだ最近」
「ち、違うよ大村さん!そういうのって努力とかでなんとか…」
「いいんだ、もう」
「大村さん…」

大村さんは天井を見上げてちょっと悲しそうに笑った。いつもより大人の顔に見えた。

「だってもし、もしもね、この脚がもうちょっとでも開いたとしたら、なんだか新しい自分になれる気がするんだもん」
「…」
「超合金だってやれるんだって思いたいじゃん」

大村さんはそう言ってまた力を込めた。その脚がもうちょっとでも開いたら、確かに新しい大村さんが見られるかもしれない。そう思った。





#040415

昨日はどうにも頭が痛かったので、机の前で頭を掌で受け止めるようにしてじっとしていましたら、昼頃突然カチリと音がして額が外れました。そこで僕は外れた額を手に持って洗面所の鏡で自分の額があった部分をよく見てみたんですが、思った通り頭の中でちっちゃい作業員が何やら慌ただしく工事中でした。彼らは今年度もやるぞ的な勢いでつるはしをふりかざし、カンカンやっておりまして、僕の本心としては工事なんてものは税金の無駄としか思えず、痛いからやめてくれと言うつもりだったのですが彼らのあまりに熱心な様子に心を打たれまして、結局何も言わず再びカチリと額をはめ込んで机の前でじっとしていました。

そのせいかまだ頭が痛みます。早く工事終われ。





#040412

私の学校では7日に始業式があった。けど忘れてたから今日が私の今年度初登校だ。
時間割が分からないから適当に教科書を鞄に詰めて学校に行った。
適当に二年生の教室に入ると、私の他には誰もいなくて黒板にでかでかと「今日は始業式です」と書いてあった。
私が突っ立ってると後ろから仲良しの菜摘の声がした。
「足高おひさー」
「おひさ」
「体育館集合だって。始業式」
「今日だっけ?」
「みんな忘れてたんだってさ」
「…」
「だから今日が始業式」
「へぇ…」
「行こ」
「うん」

私は重い鞄を肩にかけ直して「失敗したなー」と思った。





#040411

「傘とホウキと、あと一つ選ぶとすればこれじゃ」
そう言って小さな老人(本当に小さな老人だった)が、その体には不釣り合いなほど大きく膨らんだリュックサックからシャボン玉のセットを取り出してふーっと息を吹くと、シャボン玉はどんどんと大きくなりあっという間に私の背丈ほどの虹色の球になった。老人はそこまで息を吹くと満足したようにしばらく球を眺め、勢いよくさっきまで吹いていた筒状の部品を振り下ろす。シャボン玉はぷるんと揺れて完全な球になり、ふわりふわりと不安定に宙に舞い始めた。
小さな老人は一瞬私の方を振り向き、にやりと笑って老人とは思えない身のこなしで大きなリュックを背負ったままシャボン玉に飛び乗ると、シャボン玉は割れることなくぷるんと揺れただけで老人の体を受け止め、相変わらずの不安定な動きでふわりふわり、そのままゆっくりとどこかへ飛んでいった。私は飛んでゆくシャボン玉をしばらく眺め、食べ終わった弁当をゴミ箱に捨てて帰りにおもちゃ屋へ寄り、シャボン玉セットを一つ買って職場へと戻った。しかし考えてみれば、私には傘もホウキも恐らくはあの小さな老人のようにうまく使いこなすことが出来ないのであって、小さなピンク色のシャボン玉セットをぼんやりと眺めながら、さて私がふわりふわりとできるのはいつの日であろうかと考える。





#040409

「お願い。今日は一緒に寝て」
彼女がそんな弱気な姿を見せたのは初めてで、僕は少しどきどきしながらきいた。
「何をそんな怖がってるんだ?」
「最近怖い夢を見るの。大きな蜘蛛が…私を捕まえて…」
彼女はそう言いながら僕に抱きついてきた。だから僕は
「大丈夫。夢なんだ。安心して。」
と彼女をなだめながら片方の腕で艶やかな髪を梳き、もう片方ですべすべの頬を撫で、もう片方で可愛らしい耳たぶをそっとつねり、もう片方で小さな肩を引き寄せ、もう片方で細い腕をなぞり、もう片方で美しい脚を、そして最後に二本の腕で彼女の影をしっかりと掴んだ。





#040406

6時頃、新しい服を買って家に帰る途中に山崎君とばったり会った。
「あ、山崎」
「足高。お疲れ」
「今帰り?」
「うん、バイト」

私は一ヶ月くらい前、ドン・キホーテでチャルメラの棚に陳列されてた山崎君の姿を思い出した。
「まだあのバイト続けてんの?」
「ああ、あれはしんどいからやめた。」
「ふーん」
「今はデパートでバイトしてんの」
「そうなんだ?」
「デパートでたまにキンコンカンコーンっていってその後アナウンスあるじゃん」
「うん」
「あれの‘コン’のとこ」
「…」

しばらく沈黙があった。山崎君は私と同じ歩調ですたすた歩いた。

「結構難しいんだよあれが」
「へぇ…」
「でもいい‘コン’が出たときはすごい嬉しい」
「いい‘コン’…」

山崎君の顔をちらりと見ると、いい‘コン’のことを思い出しているのかほわーっとしてなんだかにやけていた。キモい。

「ホントは‘コーン’のとこがやりたいんだけどね」
そう言って山崎君は空を見上げた。コーンと晴れ渡った夕暮れだった。





#040405  ‘地下室’は今日から‘さらば愛しきドリーマー’になります

まあなぜかと言えば先日僕の家にドリーマーがやってきまして。インターホンすら鳴らすことなく土足で当然のように僕の家に上がり込んできまして。皆様ご承知のようにドリーマーというものは遠慮を知らないものでできれば来て欲しくはなかったのですが、気が付いたときには僕の後ろにすっくと立っておりどうしようもなかったので、僕はしょうがなく座布団を押し入れから引っこ抜いてドリーマーのそばに置いてやりました。ドリーマーはそれでも何か不満のようでしたので、「あれですか」と尋ねたところドリーマーはそうだという風に頷きました。それで僕はまたしょうがなく台所へ行き湯を沸かし、ミルクティーを淹れて彼に手渡すと、やっとドリーマーは座布団の上に胡座をかき、ずずずとミルクティーを啜ってふぃーと息をつきました。それで僕はすっかり安心してしまってPCに向き直り、いつもの巡回コースを廻ろうとブラウザを立ち上げたのですが、皆様ご承知のようにドリーマーというものは何か気に入らないことがあったときにこそ人の前に姿を現すものなのでして、油断しておりました。ドリーマーはすかさず僕の耳元に顔を近づけ、「お前のサイト名には夢が無い」と言い出しやがりまして。まあまあドリーマーなどというものは皆様ご承知のように主観の固まりのようなものでして、僕はただ「そうですか」と言い、さてこいつをどうやって追い出してやろうかなどと考えていたのですが、ドリーマーは僕のその言い方が気に入らなかったらしく、「キーッ」と叫びながらその鋭い爪で僕を切り刻みはじめました。「痛い痛い痛い痛い」となすすべもなく切り刻まれている間に僕の方もなんだか自分のサイトには夢が無いのかなぁと思えてきまして。確かに‘地下室’というのは何とも暗いイメージがつきまとうというか、もうちょっと、何か無いかと思いまして、ちぎれかけた腕を必死に振り上げドリーマーを制止しました。それから僕は彼にも案があるのではないかと期待し、「何かありませんか」と尋ねました。すると彼は何も言わず、ただ‘さらば愛しきドリーマー’とだけ書かれた薄っぺらい紙を僕に手渡し、僕のライターで僕の煙草に火を点けてすぱすぱし始めました。僕はよっぽど「愛しかねーよ」突っ込もうかと思ったのですが、また体を切り刻まれてはたまりません。ここはすんなり和解するためにも彼の意見をそのまま取り入れた方がいいだろうと思ったので、僕は「分かりました」と言い、ページを編集したわけです。その後僕は仲直りのしるしにと彼を風呂場へ連れて行き、体のすみずみまで綺麗にしてやりました。皆様ご承知のようにドリーマーというものは風呂が大変好きなもので、体を洗われている間中彼は「くぅ〜ん」とかなんとか言いながらとにかくくつろいでおりました。そんなわけで、僕も腕を切り落とされずに済んだわけだしまあいいかということで今日からここのことは‘さらば愛しきドリーマー’と呼んでください。最初から地下室なんてサイト名はどうかと思っていたことやジョン・レノンのイマジンを聴いていたらふと思いついただけなどという真実を真っ直ぐに打ち明けられないというのは僕の数ある欠点の一つであるわけで、まあそこは皆様ご承知の通りであるわけですが、重ねて言えば僕は体を切り刻まれてなんかおらず、さらに言えばドリーマーが僕の家に上がり込んできたなどというのは真っ赤な嘘でして。五体満足ですいませんすいませんこれからもよろしく。









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