#040316 友達の菜摘とパフェを食べに行った。菜摘は席に着くなり昨日見たらしい夢の話を熱く語った。正直あんまり興味無い。 「ペリカン」 「うん」 「ペリカンがいたの」 「うん」 「ドア開けたらペリカン」 「うん」 「でさ、普通そこでドア閉めようとするじゃん」 「うん」 「ペリカンが足で止めてんの。ドア」 「うん」 「でさ」 「うん」 「『痛っ』て」 「ペリカンが?」 「そそ」 「うん」 「裸足だしね。ペリカン」 「うん」 「基本的に」 「うん」 「で、ちょっとかわいそうになって開けてやったの」 「うん」 「ほら、私って結構優しいとこあるじゃん?」 「パフェうまい」 「うまいねー」 「うん」 「でさ、ペリカンが何するのか待ってたわけ」 「うん」 「そしたらさー」 「うん」 「ペリカンが花束出してきてさ」 「どこから?」 「え?」 「どこから?」 「さぁ…最初から持ってたかも…」 「そか」 「あ、ごめん」 「いや」 「口から」 「いいよ別に」 「くちばしのぶわってなってるとこから」 「うん」 「花束出してきてさ」 「うん」 「『付き合ってください』って言ったわけ」 「ほぅ」 「ほら、私って結構モテるじゃん」 「吉野屋、今なら豚丼250円か…」 「安っ」 「うん」 「今度行こ」 「行こ」 「でさ」 「うん」 「そんなの困るじゃん」 「うん」 「ペリカンに求愛されてもさ」 「うん」 「包容力とか経済面でさ」 「そっちかよ」 「とにかくさ」 「うん」 「考える時間をくださいって言ったわけ」 「うん」 「目が覚めてほっとした」 「うん」 「だってもし夢じゃなかったらさ」 「うん」 「ヤバいじゃん」 「うん」 「いろんな意味で」 「うん」 「ほら、私って結構モテるとこあるからさー……」 パフェうまい。 #040313 私がその店に飲みに行くと、彼はいつも決まって‘テネシー・ワルツ’を歌っている。彼の歌は素晴らしいのだが、ただ残念でならないのは、彼が透明な瓶の中で歌っているせいでどうにも声の響きが変に聞こえてしまうことなのだ。そこである日、私は直接彼にあなたはなぜ瓶の中から出ないのかと尋ねてみた。すると彼はこう言った。わたくしはこの瓶の中で産まれました。だからこの瓶の中で生き、この瓶の中で死んでゆくのです。ここから出る方法はいくらでもありますが、しかしわたくしといたしましては、ここが他のどこよりも居心地のいい場所なのです。だからわたくしはここで歌うのです、と。 私は今日もその店に少し旨い酒を飲みに行く。そしてステージの上、大きな瓶が運ばれてくると’テネシー・ワルツ’が始まる。マイクを通して聞こえてくる彼の声は相変わらず少しおかしな響きではあるのだが、目を閉じてみればなるほど、故郷を思い出させるような、素晴らしく幸せな響きではないか。 #040311 ドン・キホーテでお菓子を探して歩いていると、インスタントラーメンの棚の一番下、チャルメラの横にクラスメイトの山崎君が陳列されてた。なんと今なら109円みたいだ。 私はチャルメラを買うふりをして山崎君に小さな声で話しかけた。 「何してんの?」 山崎君は目だけこっちに向けて答えた。 「あ、足高。お疲れ」 「山崎、何してんの?」 「バイト」 「え」 「バイク買うためにね」 「ふーん…」 私は帰り際、山崎君を一つ上の出前一丁の置いてある場所に移してあげた。298円になった。 後ろから「お疲れ」という声が微かに聞こえたから、私も「お疲れ」と言った。 #040309 私が地下室に妖精を飼っているという事実は残念ながら今は秘密にしておくべきことであってまだ誰も知らないはずなのだが、私はその日の夕食後も地下室にある自分の机の前でちらちらと羽根を輝かせる妖精と延々戯れているのである。戯れるといっても犬や猫とは全く異質なものであるので戯れ方もまた異なる。まあ具体的に何をやっているのかときかれれば、早い話がポーカーである。 妖精は実にポーカーがお気に入りのようで、私が会いに行くといつも三越で買ってきたというトランプをシャカシャカとやり、臨戦態勢をとっている。「トランプは三越に限る」というのが彼女(とここではしておこう)の口癖なのだが、そのわけをきいても一向に教えてくれる気配はない。 腕前の方はというと、実際拮抗していて勝ったり負けたりが続いている。負けた方はその度に煙草一本と少しの悔しさを味わう訳なのだが、妖精に言わせるとそれがいいらしい。 「だって勝つばかりじゃすぐ飽きちゃうじゃな〜い」 美川憲一そっくりの口調で彼女は言う。よくよく考えてみれば容姿も美川憲一に羽根を付ければそっくりなのだが、「ひょっとして、美川さん?」という私の問いには彼女は何も答えてくれない。とにかく、私もその意見には同意している。 さて、今日の一戦は私の負けから始まったわけで、私はマイルドセブンを一本差し出し、彼女が咥えたそれにライターで火を点ける。彼女はふぅと息を吐き、「んま〜い」と美川憲一口調でこぼすのだが、私はもう「ひょっとして、美川さん?」とはきかないことにしている。 #040306 服を買いに街へ向かってすたすた歩いていたら向こうから犬を連れたおじさんがやってきた。犬の方が元気良く走ってむしろおじさんが連れられているって感じだったけれど、犬の首から上が無かった。 私はおじさんと目を合わさないようにうつむき加減で歩いた。でもおじさんはまっすぐ私の方に向かって歩いてきて、目の前でぴたりと足を止めた。 「失礼ですがお嬢さん、どこかでこいつの首を見ませんでしたか?」 そう言っておじさんは本来犬の頭があったはずの場所を指さした。 「いえ…」 「そうですか…」 おじさんは残念そうに犬を見下ろす。 「確かにこっちに来たんだろうな?」 犬はただ尻尾を振る。肯定なのか否定なのかは当然ながら全然分からない。 「ニオイが嗅げないのが痛いなぁ」 そう言っておじさんと首のない犬はまた首を探して歩いていった。 私は少し早足で、おじさん達とは逆方向に向かって歩いた。 #040304 「話はここで終わりです」 公園の男の話はあまりにも唐突に終わった。そして私に感想を求めるでもなく同情を求めるでもなくただじっとそこに座っていた。ふと今何時だろうかと顔を上に上げてみると、景色は夕焼けに染まり噴水の水がいやに黒く見えた。公園に入ってから2時間はこのベンチに座っていただろうか。さてその2時間の間、男がどんな話をしていたのか全く思い出せない。それどころか私はなぜこの男の話をきくことになったのだろう。私が先にこのベンチに座っていたのか彼の座っているベンチに私が座ったのか。そんなことまで思い出そうとしてはみたもののどうにもうまく映像が見えてこない。 彼は話し終わってからずっと静かに、小さな広場をゆるやかに流れてゆく人々を眺めている。私は男の話の内容を理解することを諦め、「そうですか」とこぼして広場を眺める。人の流れは全くゆるやかで、それはまるでパレットの中で混ぜ合わされたばかりの絵の具のようだったがそのことを彼に言うのはやめた。 しばらくの沈黙。私は立ち上がり、「では」と言って立ち去ろうとしたのだがもうそこに男はおらず、1羽の雀がちょこちょこと、なぜかそこに撒かれていた米粒をついばんでいるだけだった。 #040303 道を歩いているとSMAPの中居君がいた。 中居君は私の視線に気がつくと前髪に向けて息をふーっと吹いた。 ズブッ 中居君の体がアスファルトの地面にめり込んだ。 ふーっ ずぶっ ふーっ ふーっ ふーっ ずぶっ ずぶっ ずぶっ そのまま中居君は地面の中に潜ってしまって見えなくなった。 さすが芸能人は違うと思った。 #040301 テレビの中に吸い込まれた僕は一瞬わけが分からず混乱した。 そりゃ僕だって一度はテレビの中の世界に入ってみたいって思ったことはある。そんなのがあればだけど。それは例えばディズニー映画を見ているときだったり(ピーターパンなんか最高だ)、面白いドラマのクライマックスだったり。だけどいきなりテレビ画面がまぶしく光って僕がその中にいるなんて状況はとても予想できたもんじゃない。 しかし神様も人が悪い。どうせテレビの中の世界に僕を入れてくれるんならピーターパンが流れている時にしてくれればよかったのに。水深2000mじゃ何もできやしない。 ほら、もう肺が潰れた。 #040228 #040227
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